2000年代初頭、ある意味アメリカ的デザインのアイコンでもあったハマー。
超大型、大排気量、漂うニュージャージー的雰囲気のあのハマーが、20年の時を経て1000馬力を超える高出力EVとして帰ってきました。
昨今、EVによる自動車ブランドの復活や立ち上げが非常に活発ですが、ハマーのように高出力でハイスペックなEVの登場は、なぜEVが必要とされるのかを改めて考えさせられる機会にもなります。ここでは日欧米における「EVとは何者であるか」を再度整理したいと思います。

充電に見る、欧米にとってのEV

 EVハマーの詳細な車両性能については他のメディアに任せるとして、筆者が注目するのは最大350kwという超急速充電器への対応です。
350kWを出力する超急速充電器、どれくらい凄いのかというと日本に設置されているチャデモ式の急速充電器の出力が最大50kWですから、単純には7倍。
実際の急速充電器の出力は20kW-40kWほどなので、10倍近くの出力が350kWの値になります。テスラスーパーチャージャーの120kWでも3倍近くの高出力になります。
 この超急速充電器はフォルクスワーゲンやBMWが出資する合弁会社「IONITY(アイオニティ)」によって、欧州ではすでに100基以上が整備されています。


 この超急速充電によって、わずか10分ほどの充電時間で100km以上の走行を可能にしますが、これはガソリンスタンドで給油することと等しい時間の使い方が念頭にあるからです。充電の為だけに1時間も時間を掛けられない、つまり、ドイツを中心とした欧州自動車メーカーは「ガソリン車の置き換え」としてのEVを普及させるようにしていると捉えることができます。
 当然、充電時間が短縮されることは喜ばしいことですが、後述のように欧州型の超急速充電器の利用を前提としたEV普及戦略はいずれ大きな批判を浴びることになるでしょう。
 米国におけるEVも、今回のハマーの350kWの適用やテスラのスーパーチャージャーの存在を見るに、欧州と同様のガソリン自動車の置き換えとして捉えるべきでしょう。

日本の充電が遅い理由

 欧米にできて、日本にできないことは無いと言うと言い過ぎですが、単純に捉えれば日本にも欧州のような超急速充電器を導入すればより多くのEVが走ることができるようになるはずです。
 しかし、日本ではEVは前述の欧州のように「ガソリン車の置き換え」としては考えていないのです。日産やトヨタのようなEVを生産するメーカーもアナウンスをしている通り、EVは「社会全体のシステムのいち要素」として捉えています。EV廃車後のバッテリーを大型の充電池として利用する構想や、高品質な素材のリサイクルも視野に入れています。


 実際、日産自動車はリーフの発売前に電池をリサイクルする会社を立ち上げており、EVのライフサイクルを支える仕組みを社会の中に作ろうとしています。
また、トヨタ自動車も2019年6月発表のEV戦略のなかで、バッテリーの耐久性向上や使用後のリユースがEV普及に向けての課題としています。日系自動車メーカーにとってみれば、超急速充電器の非常に強い電力による充電はバッテリーの劣化を早めてしまい、リユースやリサイクル計画にも影響を及ぼしかねないのです。
ガソリン自動車の切り口でみればデメリットに等しい不便さを、スマートホームやV2Hを絡めて、EVという「全く新しいモビリティライフスタイル」をEVの黎明期から打ち出しています。このことからも日系メーカーにとってEVはガソリン車の置き換えでないことは想像に難くありません。
 このようにEVを中心として周囲の環境である社会全体の資源やエネルギー、コストを鑑みなければ、環境問題を軸にしたEV普及を実施する意味がなくなってしまいます。

 EVのみにフォーカスしている現状の欧米型の超急速充電によるEV普及戦略は、後世の評価を想像しても短絡的であり、持続可能性=サステナビリティも欠けてしまっています。

EV本来の姿

 2014年にBMW i3が日本国内で発売されました。以来今日に至るまで唱えているコンセプトがサステナビリティ=持続可能性です。製品の部品に再生素材や自然素材を使うだけでなく、車両ライフサイクルとして、車両生産工程から廃棄に至るまでの二酸化炭素・温室効果ガスの排出を徹底的に低減しています。また、顧客の自動車におけるライフスタイルとしても、これまでの自動車とは比較せず、EVを許容し理解できるかという点を提案し続けています。
 かたやアイオニティのようにEVのみにフォーカスする姿勢も持ち合わせているので、BMWのEVに対するビジョンがブレているよにも見えてしまいます。
 
 EVとは何者であるか。当記事の最初の問いに対して、「現時点では、日本ではライフスタイルを変えるモビリティ、欧米ではガソリンの代替手段モビリティ」と答えるのが妥当です。現時点と付けているのは、各社や政府のビジョンの再考を望んでいるからです。メーカー各社においてはEVとは何者であるか、たまには原点に振り返っていただきたいものです。

次回はアメリカ大統領選と電気自動車の将来展望について少し論じたいと思います。