Agenda

 今回は、企業や個人の方が事業をより推進するために、ブランディングの土台である「人々の価値観」についてご説明いたします。事例として、前回投稿の記事「ブランドアイデンティティ一刷新に見る、ロールスロイスの決意」に引き続き、イギリスの高級自動車会社であるロールスロイスを用いております。
 事業や製品のコンセプトをつくりたい、そんな方に向けたヒントも散りばめた内容です。

  • 価値観の変化を捉える|
  • 次世代の価値観のヒント|”POST-OPULENCE”とは?
  • 現代の価値観|私たちは大切なものに気づいているか?
  • 顧客が求めていることの言語化|価値観は顧客に伝わっているか?

価値観の変化を捉える|

「未来はすでに始まっている」
とある作家の言葉の通り、私たちは過去に戻ることはなく、前に進むことしかできません。
時は流れ、私たちを取り囲むあらゆる”次世代”と呼ばれる事物は既に始まっています。

▼価値観の変化を捉える重要性

 そもそも、私たちは日常のなかで常に”なにか”を選択し続け、対価として時間を費やしたりお金を支払っています。個々人の価値観を基準にした上で、「何かを選択し続け」ています。
新事業のコンセプト策定のためには、人々が「何かを選択し続けている」元となる価値観はもちろん、永続的な評価を受け続けるためには、その変化を正確に捉えることが必要です。

▼今、価値観の変化を捉える必要性

 2020年は新型コロナウィルスの影響により世界各国の都市ではロックダウンや行動規制が実施され、日本においても自粛の名の下の行動制限とそれに伴って戦後最悪の経済後退迎えました。環境が大きく変化し、ネガティブな側面が目立つ一方、自身の価値観を見直す機会を得た方も多いはずです。

なぜ通勤しなければいけないのだろう? どうして書類にハンコを押さなければいけないのだろう?

冷静に自信の日頃の行動を見つめ直す時間を得たからこそ、常識と信じて疑わなかった行為にも、合理的理由の欠落や不足を見出すことになりました。いわゆるライフスタイルそのものが変化した結果、一人ひとりの「価値観」が変わってきていることは事実です。

 そして、コロナをきっかけに世界中で価値観の変化が同時多発的に発生しています。
まさに価値観が激動し、一人ひとりが社会的な束縛や無理・無駄を廃して「本質的な価値」に敏感になってきています。
上述のように企業が顧客から永続的に評価を受けて選択され続けるには、顧客自身の価値観の変化を捉えることが重要です。そしてこのような情勢下であるからこそ、一層この重要性は増しています。

次世代の価値観のヒント|オピニオンリーダーを通した考察

そんな価値観が激動する中、ロールスロイスがGhostシリーズの新型発表に向けてとあるメッセージを発信しました。
“POST-OPULENCE – 脱・贅沢”。このメッセージはラインナップの一つの車種に込められたものですが、この車種の起源や意味を鑑みると次世代のブランドの方向性を意味付けるコンセプトであることが理解できます。
ロールスロイスが掲げるコンセプトと、それに呼応する顧客側の「次世代の価値観」について紐解いていきましょう。

オピニオンリーダーに向けたコンセプトが示すもの

 ロールスロイスをテーマとして扱った背景は、そのターゲットたる顧客が、政治家、経営者、アスリートや俳優などのスター、社会への発言力と人々を牽引していく力を持つオピニオンリーダーであるためです。筆者は彼らこそが人々への「次世代の価値観」の発信源であり、今回のテーマのヒントになると考えています。オピニオンリーダーをターゲットとしているロールスロイスの新しいコンセプトは即ち、次世代を創る力のある人たちに向けたものであり、「現実になりうる未来」のように次世代の風景を予見させる事実になり得るのです。

オピニオンリーダーが求めた価値観

 ロールスロイスが発信するコンセプトの”POST-OPULENCE”、直訳すると”次の贅沢”となりますが、ロールスロイス日本法人にて”脱・贅沢”と表現されています。
コンセプトを凝縮し、PRや販売戦略において端的でわかりやすく、顧客に伝わりやすいメッセージにまとめたと筆者は解釈しています。

 ロールスロイスの意図を”脱”を利用せずに解釈をするならば、下部のティザー動画にある通りロールスロイスの顧客が求めている”Pure”が軸となり、“次世代の贅沢の定義はより純粋で本質的なものになる”、といった表現になってくるはずです。

 しかし、新型コロナウィルスの影響で人々の価値観は変化し、自身の人生や幸せに近しいものに対して価値をより感じるようになってきていると言われています。
オピニオンリーダーは、”自身にとって本当に価値があるもの”を以前より理解したと考えられます。なぜならば、”POST-OPULENCE”というコンセプトの為に行ってきたロールスロイスの顧客調査はもう数年前から行われていたことである為です。新型コロナウィルスの影響の最中に発信されているので、より時代にフィットするように感じますが自動車の開発サイクルから考えれば3年から5年以上前から考えられていたものでしょう。

ロールスロイスが新型Ghost発表に向けたティザー動画

現代の価値観|私たちは大切なものに気づいているか?

次世代の価値観についてより深く考察する為に、現代の私たちの価値観にも立ち返ってみましょう。

現代人は大切なものを見失いがち

 モノ・コト(サービス)など多くの情報に囲まれて、私たち現代人は日々の生活を送っています※2。人々の欲求に対して企業がサービスを作り続けてきた結果、とても便利な世界が構築されたのです。”便利”を享受しすぎている現代人は、日々の生活の中で価値のあるものについて考える頻度が減り、その力が衰えてきているとも言えます。

 自動車を例に考えてみます。自動車はグローバル経済の中で最も活発に生産・販売が成され、世界中で共通する「価値あるもの」の代表格でした。自動車を所有していることに価値を感じる人が多い時代もありましたが、今や「電車で十分」「そんなお金はない」といわゆる”若者のクルマ離れ”として嘆かれるような時代になってしまいました※3。「クルマ持ってるの!かっこいい!」「ドライブするの楽しい」などに評される価値観は減少傾向にあります。自動車に代替できる価値が生まれた為に、価値観の変化が生まれてきているのです。

 自身をアピール(自己ブランディング)するツール・手段はリアルなモノからSNSなどのコトに移行していますし、時間の費やし方はSNSやあらゆるエンターテイメントへ取って代わってきています。ただそれは、自身が大切にしていモノ・コトについて信念を持って選択をし、生活を送れている訳ではなく、時代の流れにつられて利用するツール・手段が変化した結果、価値観が変化している人が大半なのではないかと私たちは考えています。

大切なモノ・コトを再考する潮流は価値提供者(企業)にとっては苦難の道

 いつも通りの生活を送っていると思っていても、世の中の環境が変化していく中で私たちの価値観も変わってきています。だからこそ、自身が「本当に大切にしているモノ・コト」の優先順位を見失ってしまうことも、現代人ではありがちな事だと思います。

そんな中で、新型コロナウィルスによる変化が訪れた日常において、私たちは「私が本当に大切にしているモノ・コトってなんだっけ?」と再考する機会と時間が与えらえたのです。「実はこれって必要なかったかも」などという疑問が、今までと違うライフスタイルでも受け入れられている”今の自分”を見て、皆が気付き始めているのです。

そんな時代において価値を提供する立場にある企業は、これまで以上に厳しい環境で価値のあるモノ・コトを生み出していく必要があります。本当に価値のあるモノ・コトを世の中に提供しなければ対価が得られない、今まで以上にその構図が成立していくことを前提に、経営戦略はもとよりブランディングやコンセプトを策定していかなければなりません。

※2:ライフスタイルや生活圏によって状況は変わりますが、産業革命の歴史は便利なものを追求していく現代的な社会構造をつくる流れでした。一方でSDGsのように私たちの未来を守る指針が打ち出され、新規事業やビジネスにおいて重要な判断軸が加わったことも事実です。私たちの生活はビジネスを発端とする多くのモノ・コトで溢れています。
※3:若者の自動車離ればは日本だけでなくヨーロッパでも同様のことが言われ始めています。

顧客が求めていることの言語化|価値観は顧客に伝わっているか?

改めてロールスロイスの具体例を用いてご説明します。”POST-OPULENCE”は脱・贅沢と表現されています。前述の通り”Pure”を追求するものであり、顧客の要望に基づいて導き出したメッセージであると紹介しました。では、このメッセージを導き出した後に企業が行うべきこととはなんでしょうか。それは、どのような方法でそのメッセージを顧客に伝えるのが効果的か考えることです。企業は戦略としてこの伝える方法を軽んじてはなりません。なぜなら、素晴らしいメッセージやコンセプトがあろうとも伝わらなければ、企業の掲げた目的が達成しないからです。

言語化して発信することで価値観を伝える

顧客が求めている価値のあるモノ・コトを提供しなければならないことは、現代も次世代も変わりません。その中で、私たちは顧客にどうやった価値観を伝えていくのでしょうか。その手法として有効なのが、言語化することです。ロールスロイスは、コンセプトの言語化を行いそれをメッセージとして顧客にわかりやすい映像と共に届けています。

人は、形からくる視覚的な情報や体験による情報だけで、共通した価値観を持つことは困難です。言語化することは、受け手の解釈に全てを委ねず、発信者側の解釈を受け手に効果的に伝える方法で、発信者が意味のコントロールが効く方法です。

そして、自身でも気付いていない価値を言葉として表現されたときや、自身が大切にしている価値観に触れた時、人は心を動かされます。人々が求めていることを言語化(ロールスロイスは可視化もしています)することのパワーがそこに宿ってくるのです。

言語化した価値観を効果的に伝える

自動車の販売時には、ブランドが販売する車種の発表と共にコンセプトを言語化して発表したり、顧客が目にするカタログやWeb、広告でもその情報は発信されることが一般的です。ただ今回は、車種の発表より以前からコンセプトを情報量の少ないイラストの動画を利用して、コンセプトの言葉をより強調的に表現しています。

ロールスロイスが狙ったことは、形や体験的な情報と言語としての情報を、情報を受け取った個人に任せるのではなく、言語化した情報の優先度を上げることです。つまり、コンセプトをより強調して先に伝えることで、”POST-OPULENCE”を前提に作り上げたクルマがこれから販売されるのだと顧客に認識させることに成功させているのです。

そして、言語化したコンセプトは当然実現しなければなりません。心を動かされた顧客はファンになりモノ・サービスをリピートして購入するようになります。一方で企業は、その状態を維持するために努力しなければなりません。ロールスロイスはプロダクトである自動車だけでなく、プロダクトに付随する全てのサービス体験において、”POST-OPULENCE”の洗練された純粋さを実現することが顧客に期待されています。

Why Rolls-Royce Raise The New Concept is “POST-OPULENCE”.

企業は時代が変わっても持続可能であり続ける為に、ブランドを更新し続けています。ロールスロイスは老舗ブランドが故に、ブランディングの大きな舵取りを行うこと自体が難しいです。ただ、それでも彼らは変化を優先したことが、今回のコンセプトを掲げたことからわかります。

新型Ghostにおけるコンセプトの設定により、さらにロールスロイス自身の方向性が”POST-OPULENCE”に舵取りをしたと私たちは考えています。ロールスロイスは長きに渡って、オピニオンリーダーを顧客として相手にしてきたことから、時代の欲求に敏感であり続けたはずです。そして今、ブランドが持つイメージと時代の欲求が乖離してきた為に、”あえて”コンセプトを大々的な広告とともに世界に発信しています。

ブランドに顧客が認める付加価値を与え、認知・支持されることにより、ブランドを壊すのではなく、時代に寄り添ったブランドとしてアップデートすることに挑戦しています。その皮切りとなった車種が、元々ロールスロイスの挑戦としてラインナップに加えたGhostという車種になったことも偶然ではないはずです。

初回無料相談

ブランディングのことにお悩みでしたら是非ご相談ください。ブランドの再定義〜メッセージの表現や伝達方法まで様々な支援の実績があります。あなたの顧客がどういう方か、あなたはどの方向性で進んでいくべきか、KIWAは対話を大切にしながら丁寧にストーリーを作り出していくことが得意です。こんな時代だからこそ、メッセージが刺さるタイミングを見逃せないと急ピッチでプロジェクトを進めている事例が増えております。
※無料相談は期間限定にて受け付けております。

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